【コラム】彫り物の圧と誤解からの解放【銭湯】

20代後半東京都足立区で3度目の一人暮らしを始め、そして新しい土地に来るとまずすることが「銭湯探し」だった。

幸いにもチャリンコで5分の所に銭湯がありワクワクしながら番台にお金を払ったのを覚えている。町に密着した昔ながらの銭湯の場合、サウナ料金は別料金になる。

 

サウナでの攻防

毎回のことながらサウナに入るとストイックモードになる私は12分計1周を3セット終わりかけた頃だった。

5人ほどしか入れない小さなサウナの中に3人連れのおじさんたちが登場。

そして皆さんその身体には綺麗な模様が!!

トラと天狗の荘厳さ。桜吹雪の鮮やかさ。幾何学模様の怪しさ。

この人たちの職業を秒で理解した私。

何をされたわけでもないのに私一人だけものすごい緊張感が!!

ただストイックモードの為、12分計が終わるまでは絶対に出れない。自分自身に課した試練に後悔しながら恐ろしい緊張感の中、耐えに耐えていた。

暑いのか緊張なのか汗が出る。心細さもMAXだ。まだ12分まで5分もある…

 

 

きい。

 

 

優しくサウナの扉が開いた。

救世主だ!

 

痩せ型の優しそうな初老のおじいさんがそろりそろりとサウナに入ってきた。

 

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おじいさん、僕はあなたを待っていたんだよ。

どれだけ待ち焦がれたか。何年もここで歯を食いしばりながら待っていた気がする。

心からお礼を言いたい。ありがとう。ありがとう。

さあ、僕と横のお三方の間に座ってサウナを楽しもう。

さあ!

 

「あ!お疲れ様です!久しぶりですね!」

トラ天狗のパンチパーマさんが初老のおじいさんに話しかける。

 

「!?」

 

あっけにとられる僕を尻目に4人でワイワイ楽しく話し始める。

こ、これはどうゆう関係だ?

4人とも銭湯の常連で顔見知りのワイワイ会話なのか!?

じんわり嫌な汗が出始める。もしや…この4人とも…

そんなことを思いながらふとおじいさんの手に目がいった。

 

 

小指がないじゃん。

 

 

悪い予感がどんピシャリ。

 

指を故意的になくした人を初めてみた動揺なのか動いてはいけない恐怖に駆られ結局4人がサウナから出るまで我慢に我慢を重ねた。

サウナ20分という新記録後の水風呂は今までに味わったことのない爽快感に包まれた。

 

 

印象の振り幅

その後、洗い場で身体を洗っていると隣にさっきの桜吹雪が座って身体を洗い始めた。

緊張の第2波が襲ってきそうになったその時、

 

「にいちゃんサウナ強いなあ。尊敬するわ。」

 

それだけを言われた。そしてその一言だけだったのに

「怖い人=実はいい人」の公式ができあがった。

単純の極み。

でもこれは頭での理解ではなく感覚として不思議と怖くなくなったのである。

もちろんそうじゃない人も沢山いる。ただ見た目に左右されないということがこの日この時に実感できたのでとても印象に残っている出来事なのだ。

 

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